— 2026年7月25日の朝、岐阜の仕事場 —
おかあさんまた関税のニュースが出ているのね。わたしがやっていた頃は、正直、関税のことなんてほとんど考えずに送れていたのよ。荷物を出したらそれで終わり、という感覚でね。それがいつの間にか、こんなに大きな話になっているのね。
おかあさん
おとうさん
おとうさんおかあさんがやっていた頃とは、前提がすっかり変わったんだよ。今は関税がある世界が普通で、その中身がまた動いた。2026年7月24日に、アメリカ向けの追加関税の根拠がSection 122(通商法122条)からSection 301(通商法301条)へ切り替わったんだ。日本発送の商品は、原則として通常の関税と合わせて12.5%になるよう調整される。ただ、今回はぜんぶが値上がりするわけじゃなくて、むしろ負担が軽くなる商品もあるのがポイントでね。あと除外される分類もある。落ち着いて順番に見ていけば、やることは30分で終わるよ。

7月24日に何が切り替わったのか

— 一律10%が期限切れになり、同じ日に別の関税へ引き継がれた

2026年2月24日から適用されていたSection 122の一律10%の追加関税は、法律で「150日まで」と上限が決まっていました。その150日目が2026年7月24日です。この日をもって10%は失効しました。

ただし、追加関税そのものが無くなったわけではありません。米通商代表部(USTR)は同じ7月24日から、「強制労働で作られた産品の輸入禁止措置が不十分である」ことを理由にしたSection 301の関税を発動しました。対象は60の国・地域で、米国の輸入額のおよそ99.4%をカバーします。日本もその中に含まれています。適用は米国東部時間7月24日 午前0時1分以降に通関する貨物からです。

2026年7月24日に米国向けの関税ルールが切り替わったことを示す図解。7月23日まではSection 122で通常関税に一律10%を上乗せしていたが、7月24日からはSection 301で通常関税と合わせて合計12.5%になるよう調整される。対象は60の国・地域で米国輸入額の約99.4%
図:7月24日を境に、根拠となる法律も計算のしかたも変わった
— What Changed
2026年7月24日からの米国向け追加関税(日本発送の場合)
  • 税率は2段階:強制労働品の輸入禁止措置がある国・地域は10%、無い国・地域は12.5%。日本は12.5%の側(インド・英国・カナダ・メキシコ・インドネシアなどが10%の側)
  • 日本・韓国・スイスは「合計12.5%」に調整される方式。EU・台湾は同じ考え方で「合計10%」
  • 期限の定めがない。Section 122は150日で切れたが、Section 301は撤回・変更されるまで続く
  • 経過措置:7月24日 午前0時1分(米国東部時間)より前に船積みされ、7月28日 午前0時1分までに通関する貨物は対象外。航空便・トラック・鉄道に同等の措置は用意されていない
おかあさん「合計12.5%になるよう調整」って、10%が12.5%に上がった、ということでいい? わたしなら、たぶんそう読んで慌ててしまう。
おかあさん
おとうさん
おとうさんそこがいちばん誤解されやすいところなんだ。今までは「足し算」、今回からは「そろえ算」だと思ってほしい。7月23日までは、その商品の通常の関税に一律10%を足していた。7月24日からは、通常の関税と合わせて12.5%になるところまでしか足さない。だから通常の関税がもともと高い商品は、上乗せがゼロになって、むしろ安くなるんだよ。

「上乗せ」から「合計12.5%」へ:税率の読み方

— 通常関税(MFN)が12.5%未満なら、差額だけが足される

商品にはそれぞれ、米国側の分類(HTSUS)ごとに決められた通常の関税率(MFN税率)があります。今回のルールは、日本原産の商品について「MFN税率+Section 301関税=12.5%」になるよう調整するというものです。MFN税率が12.5%を超えている商品には、Section 301関税はかかりません(上乗せゼロ)。

この違いが効いてくるのは、7月23日までとの比較です。以前は「MFN+10%」の単純な足し算でしたから、MFN 15%の商品は合計25%でした。それが今は15%のままです。逆に、MFNが0%の商品は、10%だったものが12.5%に上がります

ここで言葉の整理をひとつ。「MFNが0%」は「関税がかかっていなかった」という意味ではありません。MFNはあくまで通常関税の部分の話で、その上に追加関税が別に乗っています。2026年2月24日以降はSection 122の一律10%が、それ以前は相互関税が乗っていました。つまりMFN 0%の商品も、これまでちゃんと10%を負担してきたということです。今回はその上乗せ部分の決まり方が変わりました。

通常関税(MFN)の率ごとに7月23日までと7月24日からの負担を比べた表の図解。MFNが0%の分類は10%から12.5%へ2.5ポイント増、5%の分類は15%から12.5%へ2.5ポイント減、15%の分類は25%から15%へ10ポイント減になる。MFN0%は無税という意味ではなく、7月23日までも一律10%が乗っていた
図:上乗せではなく「合計をそろえる」方式。高関税の商品ほど負担は下がる
— 金額にすると、どれくらいか

いちばん影響を受けるのは、MFNが0%の分類に入る商品です。商品代$100なら関税は$10から$12.50へ、差は$2.50。1件では小さく見えますが、月に50件送れば$125です。手数料と同じで、薄利多売の商品ほど効いてきます。

一方で、MFN税率がもともと12.5%以上ある分類の商品を扱っている方は、上乗せがゼロになるので7月23日までより負担が下がっています。「関税が上がったらしい」で一律に値上げしてしまうと、下がった商品まで割高になって売れ行きを落とします。自分の主力商品がどちら側なのかを確かめるのが、今日いちばん大事な作業です。

なお、「このジャンルは0%」といった大づかみの覚え方はおすすめしません。MFN税率は品目の細かい分類ごとに決まっていて、同じカメラ関連でもボディとレンズで違う、といったことが普通にあります。中古品かどうかでも分類が変わることがあります。数はそう多くないはずなので、自分が繰り返し送っている商品の番号を実際に引いて確かめてください(米国のHTSは公式サイトで検索できます)。

除外される分類がある:中古衣料・美術品・切手・収集品・アンティーク

— 一部の分類はSection 301関税の対象外になっている

今回の措置には除外リストが用意されています。eBay Japanが2026年7月24日に出したお知らせでは、除外される分類の例として次のものが挙げられています。中古衣料その他の中古繊維製品(HTSUS 6309.00.00)/美術品/切手等/収集品・コレクターズアイテム/製造から100年を超えるアンティーク。ほかに、鉄鋼・アルミなどSection 232の対象品目や、USMCA原産の無税品なども対象外とされています。

古着、アンティーク、切手やコインといったコレクター向けの商材を扱っている方にとっては、かなり大きな話です。ただし、ここには重要な但し書きがあります。eBay Japanの案内は「除外の適用は、商品の状態や販売カテゴリーではなく、米国輸入時に申告されるHTSUS上の関税分類によって決まります」と明記しています。

除外に当たるかどうかは通関で申告するHTSUS番号で決まることを示す図解。除外リストに載っている分類ならSection 301関税はかからず通常関税だけ、載っていなければ合計12.5%になるよう調整される。除外の例は中古衣料HTSUS6309.00.00、美術品、切手、収集品、製造後100年超のアンティークなど
図:判定するのは「中古かどうか」ではなく、通関で申告する分類番号
— 「中古だから除外」ではない

つまり、中古品であっても、その商品に当たるHTSUS番号が除外リストに入っていなければ、Section 301関税はかかります。中古カメラは中古品ですが、衣料でも美術品でもアンティークでもないので、除外にはなりません。eBayの出品カテゴリーで「Collectibles」を選んでいるかどうかも関係ありません。判定するのは米国の税関であり、材料になるのは通関書類に書かれた分類番号です。

ですから実務としては、自分が繰り返し送っている商品のHTSUS番号を、一度だけ調べて控えておくのがいちばん効きます。同じジャンルを扱い続けるセラーなら、番号は数個で済むはずです。この一手間で、値付けの前提が「たぶん」から「確認済み」に変わります。

おかあさんあの頃のわたしは、伝票の品名やコードを書く欄になると「難しいから配送業者さんにお任せ」で通してしまっていたのよね。番号を自分で調べる、なんて考えもしなかった。
おかあさん
おとうさん
おとうさんお任せでも荷物は届くからね。ただ、今はその番号がそのまま利益の額を決める時代になった。DDPで関税を立て替えているのはセラー自身だから、番号を知らないというのは、原価を知らずに値付けしているのと同じことなんだ。今これを読んでいる人には、ぜひ最初の30分をここに使ってほしい。一度調べれば、あとはずっと使える知識だよ。

払うのはセラー:DDPと値付けの見直し

— 2025年からの2つの変更で、関税はセラーの原価になった

今回の変更が効いてくる背景には、2025年に起きた2つの出来事があります。ひとつは2025年8月29日のデミニミス(800ドル以下の免税枠)撤廃。もうひとつは2025年10月17日からの、米国向け$2,500未満の取引でのDDP発送必須化です。

デミニミスが無くなったことで「安い商品なら関税はかからない」という前提が消え、DDPが必須になったことで関税を先に払うのはバイヤーではなくセラーになりました。DDPとDDUの違いで書いたとおり、DDPは「関税込みで届ける」方式です。つまり今回の12.5%は、バイヤーの負担ではなくあなたの原価として乗ってきます。郵便で送る小さな荷物も、今は同じように対象です。

— Repricing
値付けの引き直し:3ステップ
  • ①分類を確認する:主力商品のHTSUS番号を調べ、除外リストに入っているかどうかを見る
  • ②合計税率を当てはめる:除外でなければ、日本発送は合計12.5%。MFNが0%の商品は10%→12.5%(2.5ポイント増)、MFNが12.5%以上の商品は上乗せなし
  • ③損益分岐を引き直す:仕入れ+送料+手数料+関税で利益ゼロの金額を出し直し、オファーのMinimum offerもあわせて更新する
— eBay Japanが案内している対応

eBay Japanのお知らせでは、セラーに対して次の3つが案内されています。①米国向けに送る商品の原産国・品目・素材・HTSUS上の関税分類をあらためて確認すること。②配送事業者や通関の専門家に相談すること。③複数国への展開(eBaymagの活用など)でリスクを分散することです。

三つめは特に、米国だけに売ってきた方にとって重要です。EUも2026年7月から€150免税が廃止されて関税前提になりましたが、それでも売り先が2つ3つあるだけで、片方の制度変更で受ける揺れはずいぶん小さくなります。今回のように「ある日突然、根拠になる法律ごと入れ替わる」ことが起きる以上、売り先を分けておくこと自体がリスク対策です。eBaymagの詳しい使い方や注意点は別の記事で整理しています。

— バイヤーへの説明は、いつもどおりで足ります

DDPで送っている限り、バイヤーが受け取り時に追加で請求されることはありません。「関税が上がったと聞いたが、私に追加請求が来るのか」と質問が届いたら、関税は出荷時にこちらで支払い済みで、表示価格以外の請求は発生しないと伝えれば十分です。英語テンプレート集の言い回しがそのまま使えます。

— そのまま使える英文の返し方

Thank you for your message. This item ships DDP (Delivered Duty Paid), which means all import duties are paid by me before shipping. You will not be asked to pay anything in addition to the price shown at checkout.
(ご連絡ありがとうございます。この商品はDDP(関税込み)で発送しますので、輸入関税は発送前にこちらで支払い済みです。購入時に表示された金額以外のお支払いは発生しません。)

今日やること:30分でできる5つ

— 慌てて全品値上げ、をしないために

ニュースを見て真っ先にやりたくなるのは「全部の出品を値上げする」ことですが、今回に限ってはそれが正解ではありません。負担が下がった商品まで値上げすると、単に売れなくなるだけです。順番はこうです。

2026年7月24日の関税変更でやること
  • 主力商品のHTSUS分類を調べ、除外リスト(中古衣料6309.00.00・美術品・切手・収集品・100年超のアンティークなど)に当たるか確認する
  • 除外に当たらない商品は、合計12.5%で関税を見積もり直す
  • MFNが0%の商品は10%→12.5%(2.5ポイント増)。損益分岐を引き直し、必要な分だけ価格に反映する
  • MFN税率が12.5%以上だった商品は上乗せがゼロ。以前より条件が良いので、値上げせず据え置くか、むしろ攻める
  • 米国だけに売っている場合は、英・EU・豪など売り先を分散する準備を始める
— 発送済みの荷物について

すでに送り出した荷物が気になる方もいると思います。経過措置として、米国東部時間7月24日 午前0時1分より前に船積みされ、7月28日 午前0時1分までに通関する貨物は今回の関税の対象外とされています。ただしこれは船便を前提にした規定で、航空便・トラック・鉄道には同等の措置がありません。eBayの多くの荷物は航空便ですから、7月24日以降に米国で通関するものは、基本的に新しいルールで計算されると考えておくのが安全です。

制度は変わり続ける。変わらないのは「原価を知っている」こと

— この1年で3回目の切り替わり

2025年8月のデミニミス撤廃、10月のDDP必須化、2026年2月のSection 122、そして7月のSection 301。この1年で、米国向けの前提は何度も塗り替えられてきました。おそらくこれからも変わります。だからこそ、その都度いちばん強いのは、自分の商品の原価を数字で把握している人です。

関税率が10%でも12.5%でも、損益分岐を出す式そのものは変わりません。仕入れ+送料+手数料+関税。この式を持っていれば、ニュースが出た日に差し替えるのは数字ひとつだけで済みます。持っていないと、毎回ゼロから不安になります。今日の作業は、そのための30分だと思ってください。

▶ 動画でも:制度が変わったとき、現場では実際に何が起きるのか。オガタが経験した関税トラブルを話しています
おかあさんわたしがやっていた頃には、税率を計算し直すなんて場面はひとつも無かった。だから正直、今の方たちは大変ねと思ってしまうの。……でも、こうして順番に聞いていくと、やることそのものは思っていたより少ないのね。
おかあさん
おとうさん
おとうさんそこに気づいてもらえたら十分だよ。制度の変更は、実は調べる人と調べない人の差がいちばん開く場面でね。今回だって、除外に当たる商材を扱っている人や、もともと関税の高い分類を扱っている人にとっては追い風なんだ。今これを読んでいる人は、まず自分の商品がどちら側かを確かめてほしい。慌てて全部値上げする前に、それだけやれば十分に間に合うよ。
おかあさん — おかあさんのひとこと わたしがやっていた頃は、難しそうな話が出てくると、つい見ないふりをして出品作業のほうに逃げていました。こうして読んでみると、こわいのは制度そのものより「よく分からないまま放っておくこと」なのだと思います。まずは自分の商品のことだけ確かめる。それならできそうだと、今なら思えます。