— 2026年8月、岐阜の仕事場、届いたばかりのメッセージを見ながら —
おかあさんおとうさん、いま「アンダーバリュー」という言葉を初めて知ったの。バイヤーさんから来たメッセージに、そのまま書いてあって。
おかあさん
おとうさん
おとうさん「インボイスの金額を実際より安く書いてほしい」「ギフトにしておいて」というお願いのことだね。輸出を続けていれば、誰でも一度は届くメッセージなんだ。悪気なく頼んでくる人がほとんどだけど、応じるとセラー側が虚偽申告をしたことになる。今日はなぜ危ないのか、そしてどう断ればいいのかを、実際に使える英文つきで整理しよう。

先に結論:低価格での虚偽申告はできない、しかし断り方には型がある

— 断る側の負担を減らすために型を用意する

結論を先に言うと、申告する金額は、実際に販売した価格をそのまま書くのが唯一の選択肢です。ここに例外はありません。ただし「断る」だけで終えてしまうと角が立ちますし、悪意のない相手を必要以上に不快にさせてしまうこともあります。この記事で用意するのは、①なぜ引き受けられないのかを短く説明する型 ②それでも角を立てない英文の言い回し ③食い下がられたときの対応の線引きの3つです。

— Answer
この記事の結論
  • インボイスの金額を実際の販売価格より低く書く「アンダーバリュー」の要求には、理由を問わず応じない
  • 2025年10月17日のDDP必須化以降、米国向けの多くの注文は届く前に関税の精算が終わっているため、「届いてから高額請求される」という要求の前提自体が薄れてきている
  • 断るときは、「できない理由」を短く伝えるだけで十分。長い説教にしない
  • 丁寧に伝えても食い下がる相手には、出品条件にない要求として、通報・ブロックの対象に切り替える判断も必要

バイヤーがアンダーバリューを頼む理由:申告額を下げれば関税が安くなるから

— 理由は単純に「安く済ませたい」

関税は多くの国で、申告した金額に一定の率をかけて計算されます。つまり申告額を低く書けば、その分だけ関税も安くなるというのが、アンダーバリューを頼んでくる一番の理由です。特別な思い込みや勘違いというより、単純に「安く済ませたい」という動機です。

これはeBayのバイヤーが米国在住とは限らないため、国や制度を問わず成立する理由でもあります。米国向けはDDP(後述)で関税があらかじめ精算されますが、EU・英国・カナダなど他の国のバイヤーはDDPの対象外で、届いた荷物に対して自国側で関税・税金が計算されます。どちらの場合でも、申告額が低ければ計算のもとになる金額が下がるという構造は変わりません。

おかあさんそれ、覚えがある。わたしがEMSで発送していた頃、税関告知書に金額を手書きしていて、「ギフトって書いておいてもらえますか」と聞かれたことがあったの。当時は意味がよく分からなくて、迷ったけれど、窓口の人に相談して、結局は実際の金額をそのまま書いた。
おかあさん
おとうさん
おとうさんその判断は正しかったよ。当時から今まで変わらず、申告額をごまかすのは国の税関に対する虚偽申告で、日本から送る側にも、受け取る国の側にも、それぞれの法律がある。おかあさんの時代はEMSの紙の告知書だったけど、いまはCPaSSやFedEx、DHLの電子データに置き換わっただけで、「実際の金額を書く」という原則そのものは変わっていないんだ。
アンダーバリュー要求への対応を比較した図解。断る場合は虚偽申告にならず法律違反のリスクがなくセラー保護の対象にもなるという安全な側。応じてしまう場合は虚偽申告にあたり関係国それぞれの法律に触れる可能性があり保険の補償対象外になることもあるという危険な側。結論は理由を問わず断ることだが断り方には角を立てない型がある
図:断れば安全な側、応じれば虚偽申告になる側。選べるのは断る側だけ

米国向けDDP必須化:関税を精算するタイミングが変わっただけで、下げたい動機は消えていない

— 変わったのは「いつ払うか」で、「安くしたい気持ち」ではない

2025年10月17日のDDP必須化以降、米国向けの多くの注文では、関税が荷物が届く前の、発送ラベルを作る段階で精算されるようになりました。配送業者が家まで来て、その場で追加のお金を請求する、という場面自体は以前より少なくなっています。

ただし、これは関税を精算する「タイミング」が変わっただけで、申告額に応じて金額が決まるという計算方法自体は変わっていません。米国向けのDDP対象注文であっても、申告額が低ければ精算される関税も低くなるため、「安くしたい」という動機そのものは消えていない点に注意が必要です。米国向けDDP対象外の発送(高額品や一部の国向けなど)や、米国以外の国のバイヤーには、そもそもDDPの仕組みは関係なく、届いた荷物に対して自国側で関税が計算されます。

おかあさんということは、DDPになったから、アンダーバリューを頼まれなくなるわけではないのね?
おかあさん
おとうさん
おとうさんそのとおり。DDPは支払うタイミングを前倒しにする仕組みであって、「関税は申告額で決まる」という計算方法自体は変えていない。だから米国向けでも、それ以外の国向けでも、対応は同じ。実際の金額をそのまま書く、という一点だけなんだよ。
関税を精算するタイミングの違いを示す図解。2025年10月17日より前は荷物到着時に配送業者がその場で関税を請求するケースが多かった。2025年10月17日以降は米国向けの対象となる注文の多くで発送ラベル作成時に関税が精算されるためタイミングは前倒しになったが、申告額に応じて金額が決まるという計算方法自体は変わっていない。米国向けDDP対象外の発送や米国以外の国のバイヤーには、そもそもDDPの仕組みは関係なく届いた荷物に対して自国側で関税が計算される
図:DDP必須化の前後で、関税請求のタイミングが変わった

なぜ引き受けてはいけないか:虚偽申告の責任を負うのはセラー自身

— 「頼まれただけ」では済まない

申告書・送り状に金額を書くのはセラー自身です。バイヤーに頼まれて書いたとしても、その申告の責任を負うのは書いた本人になります。輸出する日本側にも、受け取る相手国側にも、それぞれ税関に関する法律があり、実際の取引額と異なる金額を申告する行為は、どちらの国の法律から見ても虚偽申告にあたります。

実務上の不利益もあります。虚偽の申告額で荷物を出したことが後から分かると、配送業者や保険の補償対象から外れることがあります(実際の販売額と申告額が食い違っていれば、紛失・破損時に「本来の価値」を証明できません)。さらに、税関側の記録に不整合が残れば、その後の荷物についても検査が厳しくなるなど、長期的に自分の首を締めることにもなりかねません。

— 注意
「今回だけ」「常連さんだから」という例外は作らない
  • 1回応じてしまうと、同じバイヤーから次回以降も同じ要求が続きやすくなります。例外を一つ作らないことが、結局いちばん楽な運用です
  • eBayのポリシーでも、出品条件にない値引き・虚偽表示の要求は禁止行為として扱われています。バイヤーの要求に応じる・応じないにかかわらず、そのような要求をしてくること自体がポリシー違反になり得ます
  • 金額が大きい取引や、繰り返し要求してくる相手については、自己判断せず記録を残し、必要ならeBayサポートに相談してください

角を立てない断り方:そのまま使える英文テンプレート

— 「できない」と「理解できる」を両方伝える

断るときのコツは、相手の要望自体は否定せず、自分にはできない理由だけを短く伝えることです。長々と法律の説明をする必要はありません。むしろ短いほうが、相手も気まずくなりにくいものです。状況別に3つ用意しました。

① 購入前に「安く申告して」と頼まれたとき Thank you for your message. I completely understand your concern about customs fees. However, I always declare the actual selling price on the customs form. This is a legal requirement in both Japan and your country, so I'm not able to make an exception. Thank you for your understanding.
② 「ギフトにして」と頼まれたとき I'm sorry, but I cannot mark this as a gift since it was a paid purchase. Customs forms must reflect the actual transaction, and this applies to every shipment I send. I appreciate your understanding.
③ 発送後に「思ったより関税が高かった、返金してほしい」と言われたとき I understand it can be surprising to receive an unexpected customs charge. Please note that customs duties and import taxes are determined by your country's customs authority, not by me as the seller, and they are the buyer's responsibility under eBay policy. I'm not able to refund the customs fee, but please let me know if there's anything else I can help with.
おかあさん短い文で十分なのね。もっと丁寧に、理由をたくさん並べないといけないと思っていた。
おかあさん
おとうさん
おとうさん理由を並べるほど、かえって言い訳がましく見えてしまうんだ。「できない」という事実と、「理解している」という一言があれば、ほとんどのバイヤーはそれで納得してくれる。問題は、それでも納得しない一部の相手のほうなんだよ。

それでも食い下がるバイヤーへの対応と、通報に切り替える基準

— 丁寧な説明を尽くしても続く場合

丁寧に断ったあとも、値下げや虚偽申告を繰り返し求めてくる相手には、対応の段階を切り替えます。①同じ説明を繰り返さず、テンプレートの文面をそのまま再送する(新しい理由を毎回考える必要はありません)②それでも続く場合は、やり取りのスクリーンショットを保存したうえで、Report a buyerから通報する今後の取引を避けたい相手はブロックリストに追加する、の3段階です。

アンダーバリュー要求への対応段階を示す図解。1段目は要求が来たら短いテンプレート英文で丁寧に断る。2段目はそれでも繰り返し要求される場合は新しい説明を考えず同じテンプレートを再送する。3段目はそれでも続く場合はやり取りを保存しReport a buyerで通報する。4段目は今後の取引を避けたい場合はブロックリストに追加する。どの段階でも実際の金額を書くという原則そのものは一度も揺らがない
図:断る→再送→通報→ブロック、の4段階。原則は最初から最後まで変わらない
アンダーバリュー要求への対応チェックリスト
  • 申告額は実際の販売価格のまま書いているか(値引き・ギフト表記の要求に応じていないか)
  • 断るときは短い定型文で伝えているか(長い説明で言い訳がましくなっていないか)
  • DDP対象の注文かどうかで、「届いてからの請求が起きにくい」事実を正しく伝えられているか(「絶対に起きない」と言い切っていないか)
  • 発送後の「関税が高かった、返金して」という要求にも、関税はバイヤーの責任という原則で応対できているか
  • 繰り返し要求してくる相手には、同じテンプレートの再送→記録の保存→Report a buyerの順で対応しているか
  • 今後の取引を避けたい相手をブロックリストに追加したか
おかあさん断ることに気が引けていたけれど、決まった言い方があると分かって、少し気が楽になった。
おかあさん
おとうさん
おとうさん気が引けるのは当然だよ。でもここだけは、どんな相手であっても例外を作らないところなんだ。断ることは冷たい対応じゃなくて、自分の商売を長く続けるための、いちばん基本のルールを守っているだけなんだよ。
おかあさん — おかあさんのひとこと 税関の告知書を手書きしていた頃、「ギフトって書いて」と言われて、正直どうすればいいか分からなくなった瞬間がありました。あのとき窓口で相談してよかったと、いま振り返っても思います。決まった答えを知っているだけで、こんなに気が楽になるものなのだと感じました。