先に結論:関税は「バイヤー請求」ではなく「セラーの原価」になった
結論から書きます。米国向けeBay輸出で関税が話題になり続けているのは、2025年から2026年にかけて根拠になる制度が何度も入れ替わったからです。ただし変化の中身を分けると、実は2つの話に整理できます。ひとつは「関税を払う相手が誰か」というDDP(Delivered Duty Paid)の話。もうひとつは「関税がいくらか」という税率の話です。
この記事は前者、つまり関税がなぜバイヤー請求ではなくセラーの原価になったのかという歴史と、自分の商品の税率を自分で調べる方法に絞って解説します。今この瞬間の正確な合計税率・除外分類は、【2026年7月24日開始】米国の新関税で日本発送12.5%へが唯一の正解です。そちらを開きながら読み進めてください。
- 2025年8月29日のデミニミス(800ドル免税枠)撤廃で、「800ドル以下は関税ゼロ」という前提が消えた
- 2025年10月17日のDDP必須化($2,500未満)で、関税を先に払うのがバイヤーからセラーに変わった。今はDDPで送る限り、バイヤーへの追加請求は発生しない
- 2026年7月24日からはSection 301が現行の枠組み。日本発送は合計12.5%になるよう調整される。正確な数字と除外分類はNo.38の記事で確認する
- 自分の商品の関税率は「このジャンルは何%」と決め打ちせず、hts.usitc.govでHTS番号を引いて確かめる
- DDPとDDUの使い分け・実際の運用フローはNo.13の記事にまとめている
なぜ関税が原価になったのか:2025年からの法整備の流れ
「関税が上がった」「下がった」という数字の話に、つい目がいきがちです。でもその手前には、「関税を誰が、いつ、どう扱うか」という制度の土台そのものが、2025年からの1年でまるごと入れ替わったという、もっと大きな変化があります。ここを押さえておくと、今後また制度が変わっても、慌てずに「今回は税率の話か、それとも仕組みの話か」を切り分けられます。
— 800ドル以下は関税フリー、という時代があった2025年8月までの米国には、デミニミス(de minimis)という制度がありました。「1人につき1日800ドルまでの輸入は関税が免除される」という、個人輸入向けの優遇措置です。eBay輸出で日本から米国に送る商品の多くはこの枠に収まっていたため、事実上ほぼ関税がかからない状態で長年取引されてきました。だからこそ、それが無くなったときの影響は大きなものでした。
①2025年8月29日、デミニミス撤廃。それまで非課税だった金額帯にも関税がかかるようになりました。低価格帯の商品でも、米国に届くたびに関税が発生する状態への転換です。
②2025年10月17日、DDP発送の必須化。米国向けで商品単価$2,500未満の取引は、関税をあらかじめ払って発送するDDP(Delivered Duty Paid)が必須になりました。これで「関税を払うのはバイヤーかセラーか」という部分が決まりました。詳しい仕組みは後の章で扱います。
③2026年2月24日〜7月24日、Section 122(一律10%)。この間には、いわゆる「相互関税」がIEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠に導入されていましたが、2026年2月の米連邦最高裁判決で違法と判断され失効。代わりに通商法122条にもとづく一律10%のサーチャージが2月24日から始まりました。ただし法律で「150日が上限」と決まっており、7月24日に期限切れとなる、最初から期限つきの措置でした。
④2026年7月24日〜、Section 301(現行)。Section 122の失効と同じ日に、通商法301条にもとづく関税が発動しました。これが現在も続いている枠組みで、日本発送は通常関税と合わせて合計12.5%になるよう調整されます。この先の詳しい税率・除外分類の説明は、この記事では繰り返さずNo.38の記事に任せます。
なお、この流れとは別にSection 232(鉄鋼・アルミ・銅など特定の金属を対象にした関税)も並行して存在します。対象品目は限られますが、金属パーツを含む商品を扱う方は該当しないか一度確認しておくと安心です。
払うのはセラー:DDPでバイヤーへの追加請求が消えた仕組み
DDPが必須になったことで変わったのは「関税がかかるかどうか」ではなく、「誰が、いつ払うか」です。以前は荷物が届いた時点でバイヤーが配送業者に関税を払う場面があり、支払いを嫌がって受け取りが止まってしまうこともありました。デミニミス撤廃で、それまで非課税だった安い荷物にまで急に関税がかかるようになり、こうした場面が増えたことが、eBay Japanが米国向けをDDP必須に切り替えた背景にあります。今は発送前にセラーが計算して払い済みなので、そうした場面自体が起きません。
ここで対象になるのは米国向け、かつ$2,500未満の取引です。米国以外の地域は今のところDDU(DAP)が中心で、EUの新関税のように別の制度変更が進んでいる地域もあります。「関税=すべて同じ仕組み」とひとまとめにせず、地域ごとに前提が違うことは覚えておいてください。
- 「Import duties may apply(関税がかかる場合があります)」は、関税後払いだった時代の定番文句。DDPで送る米国向けには当てはまらないので書かない
- 問い合わせが来たら、「関税は発送前にこちらで支払い済みで、表示価格以外の請求は発生しない」と伝えれば十分
- DDPの対象は米国向け$2,500未満。それ以上や他地域の扱い、DDU(DAP)との使い分けの実務はDDPとDDUの違い【eBay必須化とインコタームズ】にまとめている
自分の商品の関税率を調べる:hts.usitc.govでHTS番号を引いてみる
関税率(通常関税=MFN税率)は商品ジャンルではなく、細かい分類番号(HTSUS)ごとに決まります。同じカメラ関連でも本体とレンズで見出しが違い、フィルムかデジタルかでも変わります。ですから「カメラは何%」「玩具は何%」という覚え方は役に立ちません。自分が繰り返し送っている商品の番号を、実際に引いて確かめるのが唯一の方法です。ここでは使用感のあるフィルムカメラ(35mmコンパクト機など)を例に、実際の調べ方を順番に見ていきます。
- 関税率表は品目ごとに条文レベルで細かく分かれ、しかも改定されます。分類の判断は専門の通関士でも見解が分かれることがある領域です
- この記事で伝えたいのは「調べ方」だけです。以下のカメラの例も、たどり方の手順を示すためのもので、実際の見出し番号・税率は必ず自分の目でhts.usitc.govの現行版で確認してください。HSコード・HTSコードの調べ方をさらに深掘りした別記事もあわせてどうぞ
①検索する。hts.usitc.govを開き、検索ボックスに商品を表す一般名詞を英語で入れます。「camera」で構いません。ブランド名や「used(中古)」を入れる必要はなく、分類は素材・用途で決まるので一般名詞で十分です。
②見出し(heading)を確かめる。検索結果は章(Chapter)ごとに並びます。写真用カメラはChapter 90の中のheading 9006「Photographic (other than cinematographic) cameras」です。同じカメラ関連でも、交換レンズはheading 9002という別の分類になるので注意してください。
③小分類(subheading)をたどる。9006の下はフィルムの種類やカメラの形式ごとに枝分かれしています。自分の商品の仕様(フィルムかデジタルか、フィルムなら幅は何mmかなど)に一致する行を探します。
④税率の列を読む。各行の右側に「Rates of Duty」として複数の列が並びます。読むのは「1-General」の列。ここが通常関税(MFN税率)です。今読んでいる数字が現行版の数字であることを確認してから使ってください(改定されることがあります)。
ここで気をつけたいのは、「中古品だから分類が変わる」わけではないという点です。HTSUS分類は基本的に商品の用途・素材・構造で決まり、新品か中古かでは変わりません。例外は、製造から100年を超えるアンティークのように、除外リストに個別の条件として載っている分類だけです。自分の商品がその例外に当たるかどうかも、結局は同じHTS番号を調べる作業の中で分かります。
- 「1-General」がFree(0%)だったとしても、それは通常関税の部分がゼロという意味です。その上にSection 301の追加関税が別に乗ります
- 日本発送は「通常関税+Section 301=合計12.5%」になるよう調整されるため、通常関税0%の商品は12.5%を負担することになります。通常関税がもともと12.5%以上ある商品は上乗せがありません
- 正確な合計税率の計算方法と、対象外になる分類(中古衣料・美術品・切手・収集品・100年超のアンティークなど)はNo.38の記事で確認してください
- 同じジャンルを扱い続けるセラーなら、控えておく番号は数個で済みます。一度調べれば、あとはずっと使えます。ただし単価が高い商品・判断に迷う商品は通関士に確認してください
今日から3つ、関税を原価に組み込むための作業を始める
ここまでの内容を、実際の作業に落とし込むと次の3つになります。難しい工程はありません。手を動かす順番が決まっているだけです。
- 主力商品のHTSUS番号をhts.usitc.govで一度調べて控える(数個で済むはず)
- 「1-General」の税率が12.5%未満なら、合計12.5%まで引き上がる前提で損益分岐を出し直す。正確な数字と除外分類はNo.38の記事で確認する
- DDPで発送している出品の説明文から「Import duties may apply」を見直し、必要なら削除する
- $2,500未満はDDP必須、それ以外の扱いはNo.13の記事で運用フローを確認する
結び:制度が変わっても、原価を知っていることは変わらない
デミニミス撤廃、DDP必須化、Section 122、そしてSection 301。この1年足らずで、米国向けの前提は何度も塗り替えられてきました。おそらくこれからも変わります。だからこそ強いのは、自分の商品の原価を、番号で把握している人です。税率が何%であっても、損益分岐を出す式そのものは変わりません。仕入れ+送料+手数料+関税。この式さえ持っていれば、ニュースが出た日に差し替えるのは数字ひとつだけで済みます。